2025/12/27 18:00
【漢 Kitchen presents Billboard Live ~飯とHIP HOP~】が12/14(日)、神奈川・Billboard Live YOKOHAMAにて開催された。
同公演は、漢 a.k.a. GAMIがMCを務めるYouTubeチャンネル『漢 Kitchen』主催によるもの。『漢 Kitchen』については既報の通り、来年3月に惜しむらくも終了を迎えることが決まったわけだが、“音楽”と“食事”という共通の二本柱を持つ、Billboard Liveでの祭りをせずして番組は終われない。
今回は全2部構成のうち、レイトランチの部に旧知の仲であるPRIMALとMEGA-Gが。ディナーの部には、番組初回ゲストだったRalphがそれぞれ出演。漢 a.k.a. GAMI本人を含めて、着席×食事を楽しみながらの空間に若干の戸惑いを隠せぬまま進行していった一日は、普段のライブ以上にゆったりとした時間が流れる、極上かつ贅沢なものだった。本稿では、レイトランチの部を軸に振り返っていきたい。
MEGA-G
レイトランチの部は、MEGA-Gの登場で幕開けに。『漢 Kitchen』本家の料理完成シーンさながら、紫色の怪しげな照明に照らされながら、今年3月リリースの最新アルバムより、まずは表題曲「Return of the Boom Bap」を披露。オールドスクールなビートを次々に料理していく。パフォーマンス全体を通して、佇まい、声、ビート、スタイルのすべてが太いMEGA-G。「食事してるなかでこんな感じですいません。“吸い”すぎてどうもすいません」と、客席を気遣うエチケットも忘れない。
続けて、「横浜を訪れてこの曲をしなかったら怒られる」と、本牧エリア出身のNAGMATICをネームドロップした「License to ill feat. DJ MUTA」を選曲。そのまま、“この国でもしもヒップホップが禁止されたら?”との問いかけから始まった「The Untouchable」、JUSWANNA名義でのクラシックで、とにかく間違いがなかった「Ten Budz Commandments」など、いちいち“バシッ”と音が聞こえてくるような、“トメハネ”がしっかりとした日本語らしいラップを展開していく。MEGA-Gがこの日の全8曲で提示したのは、ひとえにラップ/ヒップホップへの愛情と忠誠。最後の「Do it for hiphop」で届けた王道ブーンバップまで、本当にそれに尽きる。なんとも目を見張るステージだった。
PRIMAL
2番手のバトンを受け取ったのが、PRIMAL。現在は北海道で保育士をしつつ、本人曰く「着の身着のまま」だというラップを続け、今年4月には実に12年ぶりとなるアルバム『Nostalgie』をリリース。「46のオヤジがまた令和に登場!」と、意気揚々なステージを見せてくれた。
そんな彼のスタイルは、フリーキーなフロウと、聞いていて面白い“話”が特徴的。この日の2曲目「囚われの身」で歌われる〈家庭的なのが世間的 Better荒波に飲まれる詐欺な美学〉といったラインに表れているように、彼の日常と哲学が見えてくるリリックは、ラップという形で聞いていてただただ興味をそそられるもの。かつ、ブレイクごとにフロウが切り替わったり、かと思えばどこでブレスを挟んでいるのかもわからなくなるほど、切れ目のないラップをぬめっと続けたり。先ほどのMEGA-Gとはまた異なるタイプのスキルを見せつけられる。
また、PRIMALのステージには客演陣もサプライズ登場。まずはDJ BAKU「畜殺 (The Slaughter) feat. PRIMAL, RUMI」と「痺れ feat. RUMI」の2曲で、マイクパスを繰り広げたRUMI。彼女がとにかくラップマシーンだった。PRIMALのバースにはほぼ全被せし、逆に彼がRUMIのサイドキック状態に(徐々にステージ右端に寄っていくPRIMALの姿に笑いを誘われた)。さらにトラックが鳴りやんでも、直前までラップをしていた弾みを使って言葉を紡ぎ、余韻がごとく何小節かを踏み続けていく。とにかくギリギリまでラップをする、という気概が伝わってくるものだった。最後には「ブッダで休日 feat. MEGA-G」も。なんともピースフルな楽曲だが、MEGA-Gと最後に披露したのは、約10年前の北海道・旭川でのライブまで遡るという。10年という歳月の流れを感じる和やかな締めくくりとなった。
イベントスペシャルメニュー feat. Ralph
今回の主役=漢 a.k.a. GAMIのパフォーマンスを振り返る前に、イベントスペシャルメニューの内容と、Ralphが出演したディナーの部の模様についても触れておきたい。
当日の会場では、これまで『漢 Kitchen』で披露されてきた、ゲストにゆかりのあるメニューを徹底再現し、特別に提供。レイトランチの部では、漢 a.k.a. GAMIの母親が愛情を込めて揚げた簡単おつまみを挟んでの「お漢のハンバーガー」を。ディナーの部では、Ralphとともに作り上げた名作「漢 a.k.a. GAMI&Ralphのおいしいマヌカハニーのパンケーキ」をそれぞれ味わえることに。
前者については、厳つさを放つラッパーたちのステージを“おかず”に、大ぶりのハンバーガーに食らいつく客席のファンの姿は、後ろから見ていてなかなかに壮観であった。また後者については、シェフ陣が努力を重ねて、味に影響が出ない範囲で生地を黒くし、“マッドさ”も忠実に再現したという。そのほか両公演共通で「練マッドカクテル」「漢 Kitchenのいちごジュース」もあわせて楽しむことができたことを付け加えておきたい。
そんな食事が並んでいた、ステージ近く・前方エリアのテーブルを見て「全然進んでないじゃん、ごめんね横でうるさくて」と、“お前のステージを見にきたんだよ”と思わずツッコミを入れたくなる言葉をさらりと吐いていた、Ralph。漢 a.k.a. GAMIが、本イベントに向けてのインタビューで語っていた「ラッパーはやっぱり、ユーモアの部分でもスキルが高い」とは、まさにこのあたりを指していたことだろう(参考:漢 a.k.a. GAMIが今だからこそ語る『漢 Kitchen』――”普通のライブイベントでもフェスでもない” ビルボードライブ横浜公演へ)。
しかしながら、ここ横浜が地元のRalphにとっても、当日の空間はやや“たじろぎ”を見せるくらいには、あまり馴染みない空間だったようだ。冒頭、今年10月リリースのミックステープ『カイエ』より、入場曲といえる「GWB」を披露する前こそ「空気読まなくていい、適当にやってくれ」とクールに投げかけていたわけだが、曲が終わって満足げな表情を浮かべる頃には「実際これどういう感じ? どういう系?」「人がメシ食ってるところでライブしたことないんだけど……」と、“漢 Kitchen”モードでのMCに。この後に触れる漢 a.k.a. GAMI含めて、やはり困惑が先に出てしまうようだが、なかでもRalphは曲中は“仕事人”に豹変し、MCでただの青年に戻るという空気感のギャップにとにかく腹筋をいじめられてしまった。
とはいえ、日本ではおそらく初披露だという「Window Shopping」を届けたあたりで、「うん。悪くないな、なんか座ってても」と、だんだんと感触を掴めてきた様子。同楽曲は、寒さを感じる横浜の夜にも空気感が似たトラックで、あくまで比較的ながら、食事にも寄り添ってくれる曲調だった。そのため、なんとなくRalphの想いを察せたところもある。
さて、過去の作品群から見ても、日記のように内省的なリリックと、聴きやすく洗練されたサウンドの改作となっていた件の『カイエ』。ステージ後半は同作収録曲を多く並べていたためか、ラストの「In the cloud」を前に本当に急遽、代表曲のひとつ「Selfish」を差し込むことに。
たしかに彼にとっては“メインディッシュ”といえるドリル楽曲だが、ここで披露を決めたのは、この空間があまりにも「おしゃれすぎる」から。“おしゃれすぎるから”という理由でゴリゴリのドリルが披露される現場に出会ったのは人生初だったし、歌唱後に「あぁ、きもちい! ありがとうございます!」と武者震いするRalphを見て、やはり『漢 Kitchen』に招かれる側の人間ともなれば、我々一般人とは違う“喜びスイッチ”を搭載しているのだ、と少しの間、物思いに耽けさせられることとなった。
漢 a.k.a. GAMI
両部でラストを飾るはもちろん、漢 a.k.a. GAMI。レイトランチの部では「こんばんは、こんばんは。ビルボードライブ史上、いちばんダークな登場でございます」というセルフ前向上とともに姿を見せると、そこに現れたのは前述のインタビュー時と同じ、白色セットアップのトップスを着用した漢 a.k.a. GAMIだった。おめかしの概念 is どこに……。
衣装だけでなく、ラップももちろんリアルな“新宿スタイル”。序盤から「新宿ストリート・ドリーム」「紫煙 feat. MAKI THE MAGIC」と、名曲の連打に。さらに今回の披露曲ほとんどにて、ラストバース終盤でトラックを落としたところから、フリースタイルな“語り”で締める粋を見せてくれる。前者の楽曲なら〈俺も確かにゲトってたぜポケットに万券〉でトラックを止めて、〈マイク一本で頂点を目指すと決めた挑戦だ〉から「そんな挑戦から23年が経ちました」。後者なら〈ドン決まった似た者同士 どちらがsmart one shot, two shot〉から「飲み明かしたMAKI the MAGICが懐かしいぜ、おい」と回想をしてみせる。
MCでは、サイドキックを務める自身の先輩=相原くんとの軽快(?)なトークも。昔話に華を咲かせるも、その内容ほとんどが相原くんを低めのカーブでイジる内容だったため、壇上の彼のみならず、客席も思わず苦笑い。『漢 Kitchen』本家のトークに常に漂う、「この後、どうすれば?」という独特の緊張感。まさかあれを、ゲストでもない我々が生で体感する日がくるとは……。そのあたりをすべてわかっていそうな上で、相原くんに「やりづらい?」と意地悪っぽく聞いてくる漢 a.k.a. GAMIのお茶目さよ。
ふたつだけ余談を話すと、夜公演ではこの悪ガキぶりに拍車が掛かり、相原くんの名前をただバイクコール風に連呼するという、本当にふざけたセッションを展開。また昼公演では、客席側がこうした会話に入り込めないことに「ビルボードで、“見るモード”ですからね」と、番組恒例の“韻ハラ”をセルフ再現してくれる場面もあった。ただ、この韻は本人的には不服な出来だったとのこと。ちなみに件のインタビューには、ビルボードライブ横浜の料理長=佐藤顕氏に同じお題を渡し、彼を滝汗状態にした模様も収録されている。ぜひご確認いただきたい。
最後の披露曲は、LIBRO「マイクロフォンコントローラー feat. 漢 a.k.a.GAMI, MEGA-G」。レイトランチの部で引っ張りだこなMEGA-G、そして客席からこの日最大の歓声が沸いたLIBROもサプライズで登場。こちらもまた、豪華かつピースフルな幕引きである。
なお、夜公演では一部楽曲が変わり、代表曲のひとつ「my money long」をはじめ、「何食わぬ顔してるならず者」「I will show U」などを追加披露。特に「I will show U」は、琴の音色を取り入れた、しっとりとしたトラックが特徴的。そのなかで、言葉が流れていかず、穏やかなテンポ感も相まって、一つひとつのラインがとにかく刺さってくる楽曲に、客席も静かに首を振っていた光景が印象深い。Ralph「Window Shopping」同様、この会場の雰囲気にフィットする音色や楽曲傾向が見えてくる瞬間だった。
当初こそ、ディナーショーよろしく客席のファンと握手しながら入場することを試みていたらしいが、そうはせずとも客席とのコミュニケーションを終始図ろうとしていた、心優しい漢 a.k.a. GAMI。事前の公約通りで普段のライブとは異なる、優しい雰囲気だったのに間違いはない。来年3月に控える『漢 Kitchen』の盛大なフィナーレに向けて、最初の弾みをつける特別な一夜となった。
Text:whole lotta styles
Photo:Shigeto Miyata
◎セットリスト
【漢 Kitchen presents Billboard Live ~飯とHIP HOP~
1st レイトランチの部:漢 a.k.a. GAMI × PRIMAL × MEGA-G
2nd ディナーの部:漢 a.k.a. GAMI × Ralph】
2025年12月14日(日)神奈川・ビルボードライブ横浜
1st レイトランチの部:漢 a.k.a. GAMI × PRIMAL × MEGA-G
MEGA-G
1. Return of the Boom Bap
2. License to ILL
3. ブストゲスノエズ
4. Ten Budz Commandments
5. The Untouchable
6. Tokyo Walker
7. Do it for hiphop
PRIMAL
8. 囚われの身
9. 暴言
10.武闘宣言2.0
11.Proletariat
12.畜殺 (The Slaughter)(feat.RUMI)
13.痺れ(feat.RUMI)
14.現実
15.自我
16.ブッダで休日(feat.MEGA-G)
漢 a.k.a. GAMI
17.漢流の極論
18.路地裏HOMIES
19.新宿ストリート・ドリーム
20.紫煙
21.成り上がり
22.おい!boy
23.マイクロフォンコントローラー(feat.LIBRO・MEGA-G)
2nd ディナーの部:漢 a.k.a. GAMI × Ralph
Ralph
1. GWB
2. D.N.R
3. Back seat
4. ALI BABA
5. Window Shopping
6. Hougou
7. Frontears
8. あきらかにみる
9. Sightseeing
10.Lost Diary
11.Selfish
12.In the cloud
漢 a.k.a. GAMI
13.Do it till I die
14.路地裏HOMIES
15.新宿ストリート・ドリーム
16.インスト
17.my money long
18.インスト(MMI)
19.成り上がり
20.紫煙
21.マイクロフォンコントローラー(feat.LIBRO・MEGA-G)
22.I will show U
23.スキミング
◎公演情報
【漢 Kitchen Fes. ~Last Dinner Party~】
2026年3月1日(日) 東京・豊洲PIT
出演:
漢 a.k.a. GAMI、D.O、Jinmenusagi、
SUSHIBOYS、Ralph……and more!
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